―最新の研究成果の報告と陽明文庫の過去と未来―
本日は本当に暑いなか、「陽明文庫設立80周年記念特別研究集会」に、ご参加いただきありがとうございます。開会にあたりまして、ひとことご挨拶申し上げます。
東京大学史料編纂所は、古代から明治維新期にいたる、前近代の日本史史料を、国内・海外において調査・収集し、分析・研究をおこない、編纂・公開する日本史の研究所です。
2009年に、研究所は「日本史史料の研究資源化に関する研究拠点」に認定されました。国内外に所在する日本史史料を対象に、共同調査・共同研究をすすめ、その成果を研究資源化して共同利用に供し、全国の博物館・資料館や地方自治体などから、多くのご参加を得ています。 史料編纂所の調査研究事業は、幅広く国際的な展開をみせ、欧米・ロシアのみならず中国・韓国など、多様な国々との研究交流や連携を深めてまいりました。
研究所の歴史は古く、その淵源は、1793年、江戸時代の和学講談所までさかのぼります。この事業を継承しつつ、1869年に、明治政府の修史事業がはじまりますが、ここから数えても、ちょうど150年の歴史があります。
研究所の前身組織は、その後、帝国大学に移管され、戦後は東京大学の附置研究所として現在にいたります。 1901年以来、史料編纂所では『大日本史料』・『大日本古文書』・『大日本古記録』など、日本史の基幹史料集1100冊以上を刊行してまいりました。
このうち、戦後に刊行がはじまった『大日本古記録』は、各時代の代表的な日記そのものを取り上げ、史料として信頼できる最良のテキストを提供しています。その代表的なものには、藤原道長の『御堂関白記』以下、陽明文庫所蔵の歴代関白記があります。この他にも、陽明文庫所蔵の原本や古写本を、日記本文の底本や対校本として使用したものがあり、『大日本古記録』のうち、平安期から室町期の日記の半数以上が、陽明文庫本を利用しています。
また、歴史上の事件を、年月日順に関連史料を取りまとめて配列する『大日本史料』にも、数多く陽明文庫本の古文書・古典籍が引用されています。
こうした史料集の編纂には、陽明文庫での調査・撮影・研究が必要不可欠であり、出来上がった史料集は、長年にわたる近衛家・陽明文庫のご理解とご協力の賜物と存じます。あらためて御礼申し上げます。
さらに近年では、田島・尾上両教授を中心とした大型の科学研究費プロジェクトによって、高精細デジタル画像による陽明文庫所蔵史料の撮影が進展し、2014年3月からは史料編纂所の図書閲覧室でデジタルアーカイヴ公開を開始しています。
陽明文庫が所蔵する近衛家伝来本の利用環境は大幅に拡張され、現在、約4万8千コマの画像が、こうして閲覧室の端末からでも閲覧できます。 また、本研究所と陽明文庫、京都府立京都学・歴彩館は、2017年2月5日に「覚書」を締結し、歴彩館でもデジタル画像の公開が開始され、陽明文庫の御膝元の京都でも史料画像の閲覧が可能となりました。
市民向けの公開講座「陽明文庫講座」も、立命館大学等のご協力を得て、京都を中心に2011年より20回以上開講してまいりました。
本日は、このような、基幹史料集の編纂・刊行や近年の大型科学研究費等による研究活動を踏まえ、本年11月の陽明文庫設立80周年に先立ちまして、文庫の関係者や東京大学の研究者・学生・院生、さらに大学や博物館・美術館・研究機関等に所属する方々を対象に、特別研究集会を開催することになりました。
東京大学史料編纂所における、陽明文庫所蔵史料の研究成果をご披露するとともに、財団法人陽明文庫の設立から、最近のデジタル画像公開にいたるまでの歴史や、史料編纂所による陽明文庫の調査と史料集刊行の学術的意義について、本日は高精細デジタル画像等も用いて、わかりやすく紹介していただけるとのことで、私は幕末維新期が専門で古い時代はあまり詳しくないのですが、今日は大いに勉強させていただこうと期待しております。
また本日は、日本史の一研究者として徳仁親王に御参加いただき、ご報告をお願いしています。実りある充実した研究集会となりますよう、みなさまのご協力をお願いいたします。 これを持ちまして、私のごあいさつとさせていただきます。
本日は、お忙しい中「陽明文庫設立80周年記念 特別研究集会」にご参集いただきまして、有難うございました。
この度、東京大学史料編纂所のご協力を得て、皇太子殿下のご臨席を賜り、「陽明文庫設立80周年記念特別研究集会」を開催させていただきますこと、有難く、厚く御礼申し上げます。 又、皇太子殿下には、文庫所蔵の『車絵』などのご研究をご講演いただきますことは、本財団にとりましても、この上ない名誉と存じます。
財団法人陽明文庫は、五摂家筆頭の近衞家が長年にわたって伝襲した、大量の古典籍及び古文書、ならびに古美術・工芸品を、散逸することなく一括して保存管理し、学術目的の利用を促進するために、近衞家第29代当主文麿により、昭和13年11月に京都市右京区宇多野に設立されました。
本年は、藤原道長が権勢を振るい栄華を極めた寛仁2年(1018年)に「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の かけたることも なしと思へば」 の歌を詠んで千年になります。また、財団法人が設立されてから80年の節目にも当たります。
文麿は「財団法人陽明文庫設立趣意書」に、「今や家門の占を廢し、當に天下の公寶となすべきなるを信ずるもの也」 と記し、平安期から江戸期まで、連綿と伝えられた貴重資料を、近衞家のみの「たから」とするのではなく、「おおやけのたから」として、古典研究に利用され、永久に伝えられるべきものであるということを80年前に宣言しました。
現在、陽明文庫は、国宝8件、重要文化財60件など約10万件の資料を所蔵し、平成25年6月には、道長公の自筆日記『御堂関白記』が、ユネスコの「世界の記憶」に登録されるなど、文麿公の「設立趣旨書」のように、近衞家伝来の資料は、国内のみならず世界的な「たから」であると評価されております。
今後も、本財団は、設立の趣旨に立ち返り、資料を永遠に伝えると共に、展覧会での資料展示、デジタル画像の公開、公開講座や研究集会など、公益活動を通して、日本古典文化の研究や進展に貢献いたしたいと存じます。
平成30年7月15日(日)10:00〜15:45
伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホール(東京大学本郷キャンパス内)に於いて、東京大学の学生・院生・教職員及び首都圏を中心とした大学や博物館・美術館・研究機関等に所属する教員・研究者・学生・院生等を対象に、「陽明文庫設立80周年記念特別研究集会―最新の研究成果の報告と陽明文庫の過去と未来―」として研究集会を行いました。出席人数約280名。
主催:公益財団法人陽明文庫
科学研究費補助金(基盤研究(S))「天皇家・公家文庫収蔵史料の高度利用化と日本目録学の進展−知の体系の構造伝来の解明」
(研究代表者 東京大学史料編纂所教授田島公氏)
共催:東京大学史料編纂所
京都府京都学・歴彩館
科学研究費補助金(基盤研究(A))「摂関家伝来史料群の研究資源化と伝統的公家文化の総合的研究」
(研究代表者 東京大学史料編纂所教授尾上陽介氏)
写真提供:東京大学史料編纂所
本日は、大変お暑い中、特別研究集会に多数お集まりいただき、ありがとうございました。
専門的な研究成果を約4時間半にわたりお聞きいただき、かなりお疲れかと存じますので、簡単ではございますが、最後に、主催者を代表致しまして、閉会のご挨拶をさせていただきます。
本日の特別研究集会でスクリーン投影致しました高精細デジタル画像やそれを用いた研究成果は、名和修陽明文庫長を始めとする財団法人陽明文庫の資料公開への大英断と、理系並みの大規模な科学研究費を約20年間近く付けて下さった日本学術振興会のご理解・ご支援の賜物かと存じます。
お陰様を持ちまして、現在、近衛家伝来の資料を伝える陽明文庫の史料は、田島が研究代表者を務めた学術創成研究費及び2回の基盤研究(S)、更には尾上陽介東京大学史料編纂所教授を研究代表者とする基盤研究(A)による成果と併せて、現在、約6万画像のデジタル画像を蒐集しています。 先に述べた、長期間にわたる大規模科学研究費によりデジタル化された陽明文庫所蔵近衛家伝来本のうち約4万8千画像は、同様の研究費でデジタル化された京都御所東山御文庫本、宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵伏見宮家本・九条家本・柳原家本他、西尾市岩瀬文庫所蔵柳原家本などと併せて、現在、東京大学史料編纂所の閲覧室で公開されるようになりました(総計約100万画像が公開中)。
これらの史料は、禁裏・公家文庫の中核史料で、日本古典研究には欠かせない史料群です。本日の報告の中でもお話がありましたように、近衛家本・禁裏本・洞院家本・九条家本などは、天皇家と公家の文庫が関連しながら、今日まで史料を伝えていたことが分かります。
近年、日本史や日本文学の研究をめぐっては、厳しい状況にありますが、東山御文庫本・陽明文庫本を始めとする禁裏・公家文庫収蔵史料のデジタル画像の公開は、若手研究者には大変大きな希望を与えることになろうかと存じます。
今後も公益財団法人陽明文庫など管理・所蔵機関の益々のご理解により、禁裏・公家文庫収蔵史料のデジタル画像の更なる公開が促進されることを祈念すると共に、デジタル画像を利用できるという研究環境の大きな変化を僥倖ととらえ、研究者自身がしっかり研究し、その成果を社会に還元していかなければならいと思います。 本日は、公益財団法人理事長の近衞忠W様・同理事ィ子様御夫妻の出席のもと、研究者として学習院大学史料館客員研究員徳仁親王にもご参加・ご講演いただき、更には11月に「設立80周年記念 陽明文庫講座」が京都府立京都学・歴彩館で行われる関係で、西脇隆俊京都府知事にも午後からお越しいただき、また、本学から松木則夫理事・副学長にご参加いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
本科研費(基盤研究(S))は今年度含め、あと4年間は続きますので、期間中にまた禁裏・公家文庫に関する特別研究集会を開催させていただくことができればと存じます。
本日は長時間にわたり、本当にありがとうござました。
同日16:00〜17:15
伊藤国際学術研究センター3階中教室(報告・講演者および、史料編纂所の所員・OB、陽明文庫関係者、大学・博物館などに所属する日本古代史・中世史・近世史研究者、史料所蔵機関関係者)
西脇隆俊(京都府知事)
松木則夫(東京大学理事・副学長)
島谷弘幸(九州国立博物館長)
Jason Webb(南カリフォルニア大学准教授)
平川南(大学共同利用機関法人人間文化研究機構長)
他約60名